インビザラインコラム
第26回 昔インビザラインで矯正できなかった歯並びってある?
要約
近年、マウスピース矯正、特にインビザラインが人々の間で知られるようになりました。以前は、矯正治療と言えばワイヤーを使用した治療が主流でした。ワイヤー矯正の歴史は120年以上にわたり、多くの経験が積み重ねられています。一方、インビザラインは25年の比較的短い歴史を持っています。インビザラインが初めて導入された当初、私を含め、多くの矯正医はその効果に懐疑的だったように思われます。しかし、時間が経つにつれ、インビザラインの効果と適用範囲が拡大してきました。現在、多くの矯正治療がインビザラインを使用して行われており、ワイヤー矯正よりも多くの患者のニーズに応えられるようになっています。
本記事の目的
仙台で矯正歯科を探されていて、マウスピース矯正の代表であるインビザラインとワイヤー矯正のどちらで治療するか決めかねている方への情報提供を、当院の視点から書いております。
具体的には、インビザラインでも症例によっては、抜歯対応ができるようになっているなどの技術の変遷などを、短く書いております。
マウスピース矯正を代表するインビザラインとワイヤー矯正の歴史の違い
ここ数年のことだと思うのですが、マウスピース矯正が一般の方々にも知れ渡るようになったように思います。それまでは矯正といえばごく最近までワイヤーで治療するというイメージがありました。私のようにインビザラインを中心に治療をしている人間でも矯正といえばワイヤーかなと思うところもあるので、今でも矯正治療といえばワイヤーというイメージを持っている方が多いかもしれません。ちなみにワイヤーを用いた矯正治療の原型は、1900年初頭に近代矯正学の祖と言われているAngle先生が発表されており、すでに120年以上も前から行われている治療ということになります。
インビザラインとワイヤー矯正の違いはこちらをご覧ください。
一方でマウスピース矯正を代表するインビザラインは、つい先日25周年を迎えた比較的歴史の浅い装置で、ワイヤーを用いた矯正治療と比べると100年以上も歴史に差があります。この100年以上の期間を通してワイヤー矯正には多くの矯正医による膨大な経験の積み重ねがあるので、ワイヤー矯正では概ねどのような歯並びでも治療できます。どのような装置にも共通して言えることですが、出始めの装置は複雑治療に対応できるほどの情報の積み重ねが足りないので、1990年代後半にインビザラインが始まった当初はむしろインビザラインでは治せない歯並びの方が多かったはずです。インビザ治療が世に出てきた当時、私はまだ大学の医局に在籍していましたが、“あんな安っぽいマウスピースで矯正治療ができるわけがない”と思っていました。私に限らず矯正医の大部分の人がそうだったと思います。
インビザラインの使用のきっかけと使用時の驚き
さて、インビザライン社がマウスピース矯正を提供し始めてからちょうど10年が経過した2007年に私は大学の医局を離れ矯正歯科クリニックを開院しました。患者様に提供するオプションとして何かワイヤー矯正よりも患者様に求められるものはないかと考えたところ、装置が目立たず清掃性も良くて痛みも軽い、インビザラインには見事に患者のニーズに一致しているメリットがあることに気が付き、半信半疑のまま医院にインビザラインを導入致しました。実際にインビザラインで患者の歯並びを治療してみると、その当初でも驚くほどスムーズに歯が動くのを目の当たりにしたことを今でも記憶しています。何事もやってみないと分からないものですよね。
当初のインビザラインは抜歯に対応していなかった?
以前のマウスピースの材質は今とは違いマウスピースの着脱に苦労するような硬い素材だったし、その当時のインビザラインはオールマイティーな装置とは言えなかったので、ほとんどの医院で矯正装置の第一選択はワイヤー矯正でした。抜歯が必要な歯並びの治療をインビザラインで行うと思いのほか治療期間が長引いたり、インビザライン単独では理想的な状態まで治すことができず途中からワイヤー矯正に切り替えることもあり、当院でも患者様の期待に沿えない部分は多かったです。インビザラインを開始してから3、4年間は、インビザラインの適応範囲は凸凹を治す比較的治療が単純なケースに限って対応していました。私が開院した当初にインビザラインに取り組んでいるドクターの共通認識として、小臼歯抜歯が必要な治療はインビザラインではなくワイヤー矯正の方が仕上がりも良いし治療期間も短くて済むと考えていたように思います。矯正治療を行う患者でどの程度の割合の方に抜歯が必要なのか、ドクターによっても診断に差があるので正確なデータを持ち合わせておりませんが、少なく見積もって私の体感では2~3割程度の方に抜歯が必要なように思います。つまりインビザラインを導入したころは3割程度の方がインビザでは対応が難しいとお断りしていたということです。実際には小臼歯抜歯の方だけでなく外科矯正が必要な方(今でも外科矯正は私の医院ではインビザで対応していません)や手術まで必要じゃなくとも骨格の問題が大きく関わっている出っ歯や受け口のケース、小児の矯正治療など、当時はインビザラインに適さないと考えていた症例の方が多いくらいで、インビザライン治療を希望されて方でも、半分以上の方にワイヤー矯正を勧めるかもしくは治療をお断りしていたように思います。
現在のインビザラインは抜歯に対応しているのか?
このインビザライン・コラムを書き始めた最初の頃に書いたブログ(https://kubota5888.com/column/2404/)でも骨格の問題が大きい方や小臼歯抜歯が必要な方はインビザラインでの治療はあまりお勧めしないと書いております。かなり長い期間、適応範囲を大きく広げることなく対応していたことになります。それから5年が経過した現在ではどうなったかと言いますと、現在当院では小臼歯抜歯が必要な方の治療も第一選択はインビザラインです。出っ歯や受け口の方も現在ではインビザラインで治療を行うようになりました。歯の生え変わり途中の子どもの矯正治療もインビザラインで行っています。これは私自身の経験の蓄積の結果によるところもありますが、現在では多くの歯医者がインビザラインで治療を行うようになり急速に知識の集約が進み、様々な治療に関するノウハウが明確になってきたことが大きいように思います。
ちなみに私の医院では現在ワイヤー矯正をほとんど行っておりません。矯正治療を新規で開始するすべての方をインビザラインで治療しています。もちろん今でもインビザラインで治療するのが難しい場合もあるのですべての治療に対応できるとは申し上げられないのですが、大部分の患者様のニーズには応えられるようになったと思います。まだマウスピース矯正に関する明確な判断基準が存在しませんので、複数の歯科医院で矯正相談を受けると、ドクターによってインビザで対応できるとかできないとか意見が分かれることが多いようです。以前、コラムでも書いた口コミでもそのようなお話を頂きました。歯並びの状態によって向き不向きがあるのは確かですので、必ずインビザラインで対応できるとは限りませんが、数年前と比較すると適応範囲が拡大していることは確かです。ますスピース矯正をご希望の場合には、何軒か話を聞いた上で実際に治療を受ける医院を決めることをお勧めします。
著者:久保田衛