インビザラインコラム
第8回 インビザライン治療では歯が移動するとき痛みはありますか?
矯正治療で歯が移動する時、患者様によって個人差はあるのですが大なり小なりの痛みを必ず感じます。痛みが発生する詳細なメカニズムは教科書的な内容になり患者様が読むにはやや難解です。まず最初に簡単に痛みが発生する流れを説明させて頂きます。
矯正治療で歯に力が加わると、その力が刺激となり歯槽骨内で様々な細胞が活性化されます。活性化された様々な種類の細胞により、歯の周囲をとり囲んでいる骨を吸収したり新しい骨を作ったりする過程が繰り返され、その結果、歯の移動が起こります。
歯の移動が起こるためには、まずは歯の周囲の骨が吸収される必要があり、破骨細胞と呼ばれる細胞が骨を吸収することで矯正的な歯の移動が始まります。破骨細胞が骨を吸収する過程でプロスタグランジンと呼ばれるホルモンの一種が作られ、このホルモンは炎症の原因物質のひとつなので歯槽骨内に炎症が起こり、この炎症が痛みを引き起こすことになります。
矯正治療に限らず、歯を介してある一定期間骨に刺激が加わると破骨細胞が活性化されるため、歯ぎしりを長時間続けると矯正治療と同じような痛みが発生します。
骨に力が加わることが痛みを発生させる引き金になっているので、ある一定時間矯正装置を使用すると、装置の種類は関係なく必ず痛みを感じるようになります。
この矯正治療の痛みは鈍痛と言われており、むし歯の際に感じるような鋭くてズキズキするような強い痛みではありません。どちらかというと重苦しく感じるような痛みである場合が多いです。痛みに敏感な方は強い痛みに感じる場合もあるのですが、通常、矯正治療の痛みは食事の際に上下の歯が接触する際に痛みを感じることが多く、歯が接触していなければ強い痛みを感じないという方が多いと言われています。
上記は矯正治療において痛みが発生するメカニズムです。
それでは、インビザラインとワイヤー矯正では痛みの強さや持続する期間は異なるのでしょうか?
痛みの強さは放出されプロスタグランジンの量と関係しています。プロスタグランジンはある一定の範囲内の力では刺激が強いほど多く放出されるため、矯正治療において歯に加えられる力の強さが痛みの強さにある程度関係することになります。
インビザラインではマウスピースの弾性を利用して力を発生させます。マウスピースが変形しひずみが起こることで力が発生します。インビザラインでは1つのマウスピースで移動する歯の移動量は決まっておりごく僅かなひずみしか発生しないため、発生する力の大きさもワイヤー矯正と比較すると小さいことが多いです。そのためインビザラインでは通常のワイヤー矯正と比較すると生じる痛みが弱いことが多いです。
ワイヤー矯正ではワイヤー自体のひずみ変形を利用して力を発生させたり、ゴムやばねのような補助器具を用いて歯に力を作用させます。一般的にワイヤーの変形から発生する力や補助器具からの力は、力を加えた初期の段階で大きな力が加わり、時間経過とともに徐々に弱くなって行きます。
そのため比較的強い力が長期間に渡り歯に加わり続けることになります。
ワイヤー矯正では治療において強い痛みを感じることが多く、治療期間中はQOL(生活の質)が下がるのが治療の大きな問題になる場合があります。
患者様によってはワイヤー矯正を最初に行ってからインビザラインに移行する場合があります。そのような患者様に痛みについて聞いてみると、ワイヤーの時に比べるとインビザラインでは痛みがほとんど無くて、それがとても嬉しかったとよく言われます。痛みの強さは数値で表すことが出来ないので科学的には比較できませんが、インビザラインで治療されている患者様では、痛みが治療の妨げになることは滅多にないと思います。
痛みの持続性についてはどうでしょうか?
痛みの持続時間は炎症が起こる期間によって変わってきます。インビザラインでは1つのマウスピースによる歯の移動量は小さいため、比較的短い時間で歯の移動自体は終わってしまいます。そのため痛みを感じる期間も短いという特徴があります。
上記のようにワイヤーによる矯正力は長時間継続します。長時間力が継続すること自体は歯の移動が長時間続くことになり治療期間の短縮という点ではメリットの1つなのですが、痛みに関してはデメリットになります。
歯の移動において、ある程度の痛みは必ず発生します。それは仕方のないことなのですが、可能な限り痛みが軽い治療を望むのが患者様の常だと思います。
矯正治療の痛みという観点では、インビザラインは明らかにワイヤー矯正よりも痛みが軽いため、治療期間中のQOLという点ではインビザラインの方がワイヤーに勝ると私は思います。