インビザラインコラム

第21回 インビザライン治療におけるゴム掛け

インビザライン治療ではマウスピースを装着した状態で上下顎の間にゴムをかけることがあります。インビザライン治療に限定した使用法ではなく通常のワイヤー矯正でも日常的に使用し、矯正用語ではこのゴムのことを「顎間ゴム」と呼びます。インビザラインで治療をしている患者様の間では「ゴム掛け」と呼ばれているようです。ちなみに私はつい最近まで顎間ゴムのことをゴム掛けと呼ぶことを知りませんでした。

 

(ちなみに…患者様と歯科関係者で使っている用語が異なるということはしばしば見られます。最近私の医院に矯正相談に来られる方の多くが口ゴボというワードを使用されます。口元が出ていることを表す言葉のようですが、SNS等ではそういったワードがたくさん存在するようです。SNSに矯正治療のことが出てくるなんて、それだけ矯正治療が普通のことになったということですね。)

 

さて、この顎間ゴムは矯正治療全般で用いられるものなので決して珍しい類のものではなく、歯の矯正をされた方なら使った覚えがあるという方は多いと思います。

 

教科書的な顎間ゴムの使用目的

  • 上下の咬合の全体的なズレを改善するために使用

矯正治療は上下顎の歯並びを別々に並べることになりますが、最終的には上下の歯列がしっかりと咬みあうようにする必要があります。上下それぞれの歯並び自体は整っていても上下の咬合関係が前後方向に微妙なずれが生じることがあり、それを改善する目的で顎間ゴムを使用します。通常は治療の終盤で用いることが多い使用法です。

 

  • 垂直的に咬合していな歯を挺出させるために使用

矯正治療では単純な凸凹だけでなく、垂直的にも歯列からはなれた高さに歯が生えてくることがあります。歯茎の上の方から生えてきた八重歯をイメージして頂けると分かりやすいと思います。他の歯と高さが異なる歯を垂直的に引っ張る目的で顎間ゴムを使用することで、歯を本来の垂直的な位置に移動させることができます。

 

  • 望ましくない歯の移動を予防する目的での使用

矯正治療では、基本的に歯が押し合う力、または引っ張りあう力を利用して歯を移動させていきます。移動させたい歯を目的の方向に移動させるためには支えになるものが必要で、その支えには逆向きの力が加わることになります。二人の人間がロープを使って綱引きをするのと一緒ですね。

矯正治療で例を挙げるなら、小臼歯を抜歯した隙間を用いて前歯の出っ歯を治す際に前歯を内側に移動させるときに必ず奥歯は前歯に引っ張られて前の方に移動してきます。出っ歯の治療で奥歯が前方に動いてしまうと前歯を内側に移動するスペースが小さくなってしまい出っ歯を治すには都合が悪いです。このような望ましくない移動を予防する目的で顎間ゴムを使用します。

 

上記の他にも様々な目的で顎間ゴムは使用されますが、このブログは主に患者様向けに書いている文章なので、専門的になりすぎると退屈なのでこの辺にしておきます(これでもかなり専門的すぎるのかもしれませんが・・)。

 

インビザライン治療のゴム掛けも基本的には上記の目的で使用する場合がほとんどです。特筆することがあるとすれば、インビザラインの場合は上顎前歯の前突を改善する過程で上顎の奥歯を動かすためにゴム掛けを使用する頻度が高いということです。

奥歯を後ろに移動させるためにはマウスピースから発生する力だけでは不十分で、顎間ゴムを使用して上顎歯列全体を方法に引っ張ることで前歯が前方に出てしまうことを予防しながら奥歯の後方移動が可能になります。

このように顎間ゴムには明確な目的があり患者様にはそれをいつもお話ししているはずなのですが、残念なことにゴム掛けをサボるかたが稀にいらっしゃいます。しっかりとゴム掛けの目的を理解して頂けなかったのは説明が悪いからに他ならないので、それを患者様だけのせいにすることはできませんが、ゴム掛けを指示した通りに使用して頂けないと当然の結果として治療が予定通りに進みません。それどころか場合によっては最初の状態よりも悪い状態になりかねないので、ゴム掛けを怠ったらどのようなことが起こるのかについても補足しておきたいと思います。

 

出っ歯の治療している際にゴム掛けを怠ったら…

上述した通りインビザラインで出っ歯の改善を図る場合、まず上顎の一番後ろの歯(第2大臼歯)を後方に移動し、移動することでできたスペースを用いて後ろから2番目の歯(第1大臼歯)を後方に移動。その際に出来たスペースを利用してまたその隣の歯を移動するという玉突きの要領で奥歯から少しずつ後方に移動していきます。

 

 

奥歯を後ろに移動する際に上顎前歯には押し合いの力として前方に移動する力が加わることになります。奥歯と前歯では歯の大きさも歯根の太さも異なり奥歯の方が圧倒的に大きいため、奥歯と前歯が押し合いをすると前歯のほうが移動することになります。大人と子供が押し合いをすると子供の方が移動しますよね、それと同じで単純に奥歯と前歯が押し合いをすると出っ歯を改善したいのに前歯がより前方に移動することになります。

この前歯の出っ歯方向への移動を予防する力が必要で、それをゴム掛けが担っているという訳です。ですからゴム掛けをせずにマウスピースだけを使用していても一向に出っ歯が治らないどころが、気が付いたら以前よりも前歯が前に出てしまったという事態が起こりかねないわけです。インターネットの書き込みで、そのような状態に陥った方の不満を目にしたこともあるので、きっとこれはそこら中で起こっている事案だと思います。

 

インビザライン治療は目立たないことがメリットの一つでもあります。ゴム掛けをするとどうしてもゴムが見えてしまうので目立たないという利点が損なわれるという点も事実です。私自身がインビザラインと顎間ゴムを併用して自分自身の治療を行ったのでゴム掛けが面倒だったり掛けたくない方の気持ちもよく分かります。ですが、歯の矯正治療は魔法で歯を動かすわけではなく、何でも思いの通りになるわけでもありません。しっかりと歯並びを治すためには患者様の協力と努力も必要です。

矯正治療はドクターと患者様がひとつのチームとして協力しながら進めていく治療です。ゴム掛けを担当医から指示された場合には、皆様忘れずにご使用ください!

院長 久保田 衛

  • 医療法人プライムオルソ 理事長
  • 日本矯正歯科学会 認定医
  • インビザライン公認クリニカルスピーカー
  • カンボジアプティサストラ大学臨床教授

医療法人プライムオルソ くぼた矯正歯科クリニック

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